化学物質を原因とする労働災害は多く、年間400件ほど報告されています。
中でも、保護具を着用していなかったことによる化学物質の経皮吸収が最も多く、吸入や経口からの災害の約4倍あります。
しかも、皮膚性刺激がないにも関わらず、皮膚から吸収されたことにより発がんに至ったと疑われるケースもあります。

このような背景を受けて、労働安全衛生法の一部が改正され、これまで努力義務だった保護具の着用が2024年4月から義務化されました。

この記事は、保護具の適切な使用と管理責任の重要性について解説します。

保護具について

保護具が必要な主な業務

労働安全衛生法では、一定の作業や環境のもとでは、事業者は作業者に保護具を使用させることが義務付けられています。保護具が必要な作業には、次のようなものがあります。

  • 皮膚や目に障害を与える物質を取り扱う業務
  • 有害物質が皮膚から吸収されるおそれのある業務
  • 飛来物、浮遊粉じん、薬液飛沫が発生するおそれのある作業
  • 溶接時の強い光やレーザ機器からのレーザ光等、眼に有害な光が発生する作業

これらの業務は、作業者の健康に影響を与える可能性があるため、適切な保護具の使用・管理が求められます。
該当する有害物質・化学物質であるかは、SDS(安全シート)を確認してください。

保護具の役割とは

保護具は、作業者を外部の危険から守るための最前線です。以下のような役割を果たします。

  • 身体の一部を物理的な危険から守る(例:安全靴、ヘルメット)。
  • 有毒物質の吸入や皮膚接触を防ぐ(例:防毒マスク、防護手袋)。
  • 作業中の事故やけがのリスクを軽減する。

保護具の適切な使用は、作業者の安全だけでなく、現場全体の安全意識向上にも寄与します。

保護具の例

保護具には、以下のようなものがあります。

  • メガネやゴーグルなど、有害光や粉塵、飛来物から目を守るもの
  • 防じんマスクや防毒マスクなど、有害ガスや粉塵から呼吸を守るもの
  • 保護手袋など、熱や薬品、切創などから手を守るもの
  • 耳栓やイヤーマフなど、騒音から耳を守るもの
  • 墜落制止用器具など、転落や墜落から身を守るもの
  • 検知警報機や酸素濃度計など、危険な一酸化炭素ガスや硫化水素などを検知する機器

保護具を選ぶ際は、JIS規格やEN規格に適合した商品を選ぶことが重要です。


保護具の重要性

有害作業における保護具の重要性

有害作業では、作業者の健康被害を防ぐために保護具の使用が不可欠です。
例えば、粉じん作業では防じんマスクが、化学物質を扱う作業では防毒マスクが必要です。
適切な保護具を使用することで、長期的な健康被害を防ぎ、作業者の安全を確保できます。

化学物質と保護具の関係

化学物質を扱う場合、その危険性に応じた保護具の選定が重要です。
例えば、以下のような保護具が考えられます。

  • 防毒マスク:揮発性有機化合物や有害なガスの吸入防止。
  • 耐薬品性手袋:腐食性の高い化学物質から皮膚を守る。
  • 防護服:液体や粉末状の化学物質が皮膚に接触するのを防ぐ。

また、化学物質の特性を正しく理解し、MSDS(安全データシート)に基づいて保護具を選定することが求められます。

事業所全体で保護具が必要な場合

事業所全体で保護具を使用する必要があるケースもあります。
例えば、塗装工場や化学工場では、作業者全員が適切な保護具を着用する体制を整えることが重要です。
このような取り組みは、労働災害の発生を防ぐだけでなく、事業所全体の安全文化を高める効果もあります。


2024年4月から義務化「保護具着用管理責任者」とは

2024年4月から、「保護具着用管理責任者」の設置が義務化されます。
この役職は、保護具の適切な使用と管理を徹底するための重要な役割を担います。

保護具の点検と維持

管理責任者は、保護具の点検と維持を行う責任があります。
具体的には以下の業務が含まれます。

  • 定期的な保護具の点検と不良品の交換。
  • 使用状況の確認と適切な保管方法の指導。

使用者への教育

作業者に対して保護具の正しい使用方法を教育することも、管理責任者の重要な役割です。
具体的には以下の内容を指導します。

  • 保護具の着脱手順。
  • 使用中の注意点。
  • 保護具の限界や効果的な使用方法。

教育を徹底することで、作業者自身が安全意識を持ち、リスクを最小限に抑えることができます。

安全ルールの遵守

管理責任者は、作業現場での安全ルールの遵守を監督する役割も担います。
これには以下の取り組みが含まれます。

  • 作業中の保護具着用の確認。
  • 保護具未着用時のリスク説明と改善指導。
  • 現場全体の安全意識向上を目的とした定期的なミーティングの実施。

まとめ

保護具の使用と管理責任は、作業者の安全を守るための基本であり、現場全体の安全文化を形成する上でも重要です。
特に、2024年4月から義務化される「保護具着用管理責任者」の役割をしっかりと理解し、適切な管理体制を整えることで、事故や健康被害を未然に防ぎましょう。
安全な作業環境の実現に向けて、保護具の適切な使用と管理を徹底することが求められます。