私たちの身の回りには、見た目には気づかない形で多くの化学物質が使われています。なかでも「有機溶剤」は、工業製品から日用品、サービス業に至るまで幅広い現場で活躍しています。しかし、便利である反面、正しい知識と取り扱いを怠ると、作業者の健康に重大な影響を与えることがあります。

本記事では、「自分の職場は有機溶剤業務に該当するのか?」をセルフチェックできる内容をお届けします。有機溶剤作業主任者の講習対象となるか、ぜひこの機会に確認してみてください。


有機溶剤とは?

有機溶剤とは、有機物を溶かす性質をもつ液体で、主に以下のような用途で使用されます。

  • 塗料や接着剤の成分
  • 洗浄剤(パーツクリーナーなど)
  • ネイルリムーバーやインク除去剤
  • 印刷インクの溶解剤

以下は、主に有機溶剤として使われている物質の一例です:

  • トルエン(塗料、接着剤)
  • キシレン(ラッカー系塗料、油性ペン)
  • 酢酸エチル(ネイル除光液、接着剤)
  • メタノール(洗浄剤)
  • アセトン(ネイルサロン、工場)
  • MEK(メチルエチルケトン)(印刷インク)
  • イソプロパノール(清掃用アルコール、消毒剤)

これらの溶剤は、揮発性が高く吸引や皮膚吸収により中毒症状を引き起こすおそれがあるため、特定の作業では「有機溶剤作業主任者」の配置が義務付けられています。


あなたの職場は該当する?セルフチェック5問

以下の5つの質問に「はい」「いいえ」で答えてみてください。3つ以上「はい」がある場合、あなたの職場は有機溶剤業務に該当する可能性が高く、講習受講を検討すべきです。

Q1. 作業現場でシンナーや塗料、接着剤を日常的に使用していますか?

→「トルエン」「キシレン」などの成分が含まれている可能性があります。

Q2. ネイルリムーバーや工業用洗浄剤を頻繁に使用していますか?

→「アセトン」や「酢酸エチル」などが該当します。

Q3. 作業中に独特のにおいがすることがありますか?

→ 揮発性有機溶剤の可能性があり、換気が不十分だと中毒リスクが高まります。

Q4. 作業後に頭痛、めまい、吐き気を感じることはありませんか?

→ 初期の有機溶剤中毒症状が疑われます。

Q5. 作業マニュアルや保護具の指示が明確に定められていませんか?

→ 安全対策が不十分なまま、有機溶剤を扱っている可能性があります。


有機溶剤業務が該当する主な業種

以下のような業種では、有機溶剤が日常的に使用されています。

ネイルサロン

ジェルネイルやリムーバーにはアセトンや酢酸エチルが使用されています。閉鎖空間での作業が多く、換気が不十分な場合には慢性中毒のリスクも。

塗装業

自動車や建築塗装に使用されるラッカー系塗料には、トルエンやキシレンが含まれていることが多く、スプレー塗装時には吸入リスクが高まります。

清掃業

床用洗剤や剥離剤などの中には、イソプロパノールや酢酸エチルなどの溶剤が含まれているものもあり、皮膚からの吸収による健康被害も報告されています。

印刷業

インクや洗浄剤にMEKやトルエンなどが使用されることがあり、長時間の作業で蓄積的な健康被害が懸念されます。


なぜ講習が必要なのか?

有機溶剤を使用する作業では、「有機溶剤作業主任者」の配置が法律で義務付けられているケースがあります。これは、作業環境や労働者の健康を守るために極めて重要な役割を担うポジションです。

主任者には、以下のような責任があります:

  • 換気設備の点検と管理
  • 作業手順の確認と改善
  • 作業者への保護具使用の指導
  • 異常が発生したときの対応と報告

もし主任者が不在で、有機溶剤による健康被害が出た場合、企業は重大な法令違反とみなされる可能性があり、刑事罰や損害賠償のリスクも。


有機溶剤作業主任者講習とは?

講習は通常2日間で、以下のような内容が含まれます:

  • 有機溶剤の種類と性質
  • 中毒予防のための作業環境管理
  • 保護具の種類と使用方法
  • 緊急時の対応手順
  • 関連法規(労働安全衛生法、有機溶剤中毒予防規則)

修了者には「有機溶剤作業主任者技能講習修了証」が発行され、法令に基づく主任者としての任命が可能になります。


まとめ

有機溶剤は、想像以上に私たちの身近に存在し、知らず知らずのうちに健康を脅かす危険性があります。ネイル、清掃、塗装、印刷といった分野では特に注意が必要で、「自分には関係ない」と思っていた作業が、実は講習の対象だったというケースも少なくありません。

本記事で紹介した5つのセルフチェックで、「該当するかも」と思った方は、ぜひ一度有機溶剤作業主任者講習の受講を検討してみてください。