空を使う“もうひとつの技術力”としてのドローン

ドローン技術(特に産業用ドローン)は、ここ数年で飛躍的に進化し、多くの産業分野で実用化が進んでいます。
「空を飛ぶ小型無人機体」というだけでなく、センサーを搭載し撮影・点検・散布・運搬を担う“空中ワーカー”としての役割が拡がっています。

特に、従来なら人が足を運び足場を組むなどの労力・コスト・リスクを要する作業を、ドローンで代替・補助するケースは非常に注目されます。
本記事では、法律的な視点を交えながら(とりわけ建築基準法第12条)、ドローンがなぜ有用なのか、どこで使われているか、導入時に押さえるべきポイントは何かを整理してお伝えします。


建築基準法第12条(12条点検)とドローン活用

建築基準法第12条とは何か?

建築基準法第12条は、定期報告制度を定めた条文で、建物の所有者または管理者に対して、定期的に建築物・設備・構造の調査を行い、特定行政庁に報告を義務付けるものです。

具体的には、以下のような点検対象があります。

  • 建物本体(外壁・屋根・構造的な劣化・損傷など)
  • 建築設備(給排水、換気、電気設備、空調設備など)
  • 防火設備、昇降機などの特殊設備 drone-frontier.co.jp+2国土交通省+2

従来、外壁の「タイル浮き」や「クラック(ひび割れ)」の検査は、打診(テストハンマーなどで打撃音を聴き取る調査)法が主流でした。

ドローン赤外線調査が認められた改正とガイドライン

しかし近年、ドローン搭載の赤外線サーモグラフィを用いた外壁調査が、打診法と同等以上の精度であると認められ、12条点検における外壁調査の選択肢として制度的に位置付けられています。国交省告示・技術ガイドラインも整備されており、ドローンによる赤外線調査の要件・実施ルールが定められています。

たとえば、令和4年の改正により、従来「手の届く範囲は打診のみ」とされていた部分も、「無人航空機の赤外線調査も含む」と規定されるようになりました。

この制度的な変化により、高所・難所の外壁点検が足場なしで行えるようになり、コストや安全性という面で大きなインパクトをもたらしています。

ドローンによる12条点検活用のメリット

ドローンを使った12条点検(外壁赤外線調査)には以下のような利点があります。

  • 足場を組む必要がなく、設置・撤去のコストと時間を削減できる
  • 高所や複雑形状の箇所でも非接触で撮影・観察可能
  • 赤外線による温度差検出で、タイル浮き・内部剥離・隠れた劣化を可視化可能
  • 点検時間の短縮、コスト効率の改善、作業者リスクの軽減
  • 点検スケジュールを柔軟に運用でき、修繕期の最適化につながる

ただし、ドローン赤外線調査は「劣化の可能性を探る診断手法」であり、浮きが見つかった箇所の補修は別途現地確認・施工が必要という点を押さえておく必要があります。


産業用ドローンの主な活用例(日本国内)

日本国内で実際に運用されている、または導入が進んでいる産業ドローンの活用例をいくつかご紹介します。

高圧洗浄・屋外清掃作業

たとえば、外壁や屋根、太陽光パネル、仏閣の屋根など、アクセスが困難な場所の“汚れ落とし”作業にドローンが使われています。
従来では高所足場を設置するか、作業員をロープアクセスさせるなどの方法を取る必要がありましたが、ドローンによる高圧洗浄で足場なし・人手削減・安全性向上を図る例があります。

寺院(糞害対策・鳥害清掃)

古い寺院・神社の屋根や樹木上などに鳥の糞害や巣材ゴミが付着するケースがあります。これを人が高所に上って清掃するのは危険を伴いますが、ドローンによる水洗いや軽清掃を実施する事例があります。

太陽光パネル清掃

大規模な太陽光発電所では、パネルに埃・鳥糞・砂が付着することで発電効率が落ちます。ドローンを使った清掃(あるいは除塵)によって、広域効率よく清掃でき、維持コストを下げる運用が期待されています。

遠隔地・人里離れた工場や構造物

山間部・島嶼部・林間地域などの人や足場が入りにくい場所の工場・倉庫・送電鉄塔・山間の貯水施設などでは、定期点検・外壁調査・屋根状態確認・煙突や配管調査などにドローンが用いられています。

河川・砂防・橋梁・ダムなどのインフラ点検

国土交通省もドローンを河川巡視、砂防施設点検、橋梁の損傷確認などに活用中です。
橋梁点検では、従来点検車が道路を規制して近接目視点検を行っていたところを、ドローンで事前画像を取得し、点検車入り前の損傷把握などを補助する方式が導入されています。

農業分野

産業ドローンのもっとも実用化が進んでいる分野として、農薬・肥料散布および作物の生育モニタリング(マルチスペクトル空撮など)があります。
また、傾斜地や不整地でも対応できる機体が普及し、従来の散布機では入りにくかった圃場での運用も進んでいます。 農林水産省

物流・輸送・配送

日本郵便×NTTドコモによるドローンを使った郵便物(書類)輸送の実証実験なども実績があります。 CFC Today
将来的には宅配の“ラストワンマイル”や離島・山間部への物資輸送、緊急物資配送などでの活用が見込まれています。 IotBiz+1


ドローン活用の成功の鍵:導入時のポイントと留意点

産業用ドローンの導入を成功させ、価値を最大化するためには、以下のポイントと留意点が重要です。

法令・規制対応をクリアにする

  • 航空法・無人航空機規制:飛行空域、目視外飛行、夜間飛行などの制限があるため、必要な承認・許可を取得すること。
  • 建築基準法第12条対応:ドローン赤外線点検を12条点検の代替手段として使う場合、ガイドラインに定められた精度要件や実施手続きに沿うことが必須。
  • 安全管理体制:操縦者資格・研修、飛行前チェック、安全高度設定、禁止空域確認、リスクアセスメントなどを整備すること。

機体・センサー選定を適材適所で

  • 赤外線サーモグラフィ搭載:外壁点検用途には、赤外線センサー性能(解像度、温度分解能など)が重要。
  • 高圧洗浄ノズル・水流装置適合性:清掃用途の場合、防水性・水圧対応能力・搭載の安定性が求められる。
  • 搭載可能重量とバッテリー稼働時間:広域巡回・清掃には長時間飛行ができる性能が望まれる。
  • 安定飛行制御(GPS/RTK/SLAM):障害物回避・風対策・ブレ制御の技術を備えること。

運用設計と運航プランの立案

  • 飛行ルート設計、撮影高度・視角設定、重複撮影率、安全マージンの確保
  • データ撮影だけでなく、画像解析・AI識別技術との組み合わせ(クラック抽出・浮き判定)
  • 定期運用スケジュール、メンテナンス計画、劣化モニタリングの連続性
  • 地上オペレータ・支援体制、緊急対処(墜落・故障対応)策の確立

コスト対効果の評価

  • 導入コスト(機体・センサー・許可・教育) vs 従来方式コスト(足場設置・人件費・交通制限など)
  • 定常運用化するスケール:点検対象数や運用頻度が少ない場合は外注が適切なケースも
  • ROI(投資回収期間)を見据えた段階導入戦略

安全・リスク管理

  • 飛行禁止区域の確認(空港周辺、人口密集地、イベント上空など)
  • 気象(風・雨・日照)および磁場干渉への対応
  • 飛行時の通信切断・故障リスクを見越したフェイルセーフ設計
  • 法令違反・損害責任をカバーする保険加入

ドローンで「賢く動かす」未来へ

産業用ドローンは、従来の人手・足場中心の現場作業に対し、「空から・非接触で・短時間で」代替または補完する強力なツールです。特に、建築基準法第12条に基づく外壁点検の分野では、ドローン赤外線調査が制度的に認められ、実用性・効率性・安全性の観点で大きな進展をもたらしています。

寺院の糞害清掃、太陽光パネル洗浄、遠隔地工場の定点観測、インフラ点検、農業散布、物流輸送など、多様な現場で活用が進んでおり、今後さらに広がっていくことは疑いありません。

ただし、ドローン導入は単なる「機械を買えば終わり」ではなく、運用設計・安全管理・法令順守・適材適機体選定といった準備と継続的運営体制が肝要です。