「有機溶剤」と聞くと、どこか遠い業界の専門用語のように感じるかもしれません。しかし実際には、私たちの身の回りの多くの作業やサービスに、有機溶剤が日常的に使われています。そして、その使用には法律で定められた教育や管理が必要であることをご存じでしょうか?
本記事では、ネイルサロンや塗装業、清掃業、印刷業など、見逃されがちな業種での有機溶剤の使用実態を取り上げ、なぜ講習の受講が重要なのかを分かりやすく解説します。
身近な業種と有機溶剤の関係
ネイルサロンで使われる有機溶剤
華やかなネイルアートを支えるジェルネイルや除光液には、実は有機溶剤が含まれています。たとえば、アセトンや酢酸エチルなどが代表的で、これらは揮発性が高く、長時間吸い込むことで頭痛や吐き気、めまいといった症状を引き起こす可能性があります。
ネイリストの方々は、毎日何人ものお客様を対応する中で、繰り返しこれらの溶剤にさらされるため、健康への影響も無視できません。にもかかわらず、多くのネイルサロンでは「有機溶剤を使っている」という意識が薄いのが現実です。
建築・塗装業における有機溶剤の使用
建築現場やリフォーム工事に携わる方々にとって、有機溶剤はごく当たり前のように使用されています。塗料や接着剤、シーリング剤、防水剤などに含まれるトルエン、キシレン、MEK(メチルエチルケトン)などが該当します。
密閉された空間での作業や、換気が不十分な場所での塗装作業などでは、蒸気の吸入による健康被害のリスクが高まります。こうした作業に関わる場合は、労働安全衛生法に基づき「有機溶剤作業主任者」を置くことや、適切な保護具の着用が求められます。
清掃業における見逃されがちなリスク
ビル清掃や店舗クリーニングなどの業務においても、洗浄剤や剥離剤の中に有機溶剤が含まれているケースがあります。特に床のワックス剥離剤や、ガラス洗浄用のスプレーなどには、イソプロパノールやグリコール系溶剤などが使用されており、皮膚や粘膜への刺激、長期的な健康への影響が懸念されます。
日常的に扱っている洗剤のラベルをよく見ると、「換気を十分にしてください」「長時間の使用は避けてください」といった注意書きがあるはずです。これらはすべて、有機溶剤によるリスクを軽減するためのものなのです。
印刷業界における溶剤使用
印刷業界では、インクの溶剤や洗浄液などに有機溶剤が使用されています。ローラーや印刷機器を洗浄する際に使う溶剤は特に高濃度のものが多く、換気が悪い場所では一気に蒸気が充満することもあります。
作業者の健康を守るためには、十分な換気やマスクの着用、さらには有機溶剤作業主任者による管理が必要です。特に中小の印刷会社や個人経営の工房では、法令への理解が十分でないケースもあり、注意が必要です。
「気づかずに法令違反」になっていませんか?
有機溶剤を使用する業務は、労働安全衛生法によって定められた「有機溶剤作業」として分類される場合があります。そして、一定量を超える使用や、特定の作業環境では、有機溶剤作業主任者の選任と講習受講が義務となります。
しかし、業界や事業者によっては、「化学物質を扱っているという認識がない」「薬品ではなく、ただの洗剤・塗料だと思っていた」というケースも少なくありません。結果的に、
- 法定講習を受けずに作業を行っている
- 換気設備や保護具の整備が不十分
- 作業記録や安全データシート(SDS)の管理がされていない
といった問題が発生し、万が一事故や健康被害が起これば、事業者が責任を問われる可能性もあります。
講習を受けることで得られるメリット
有機溶剤作業主任者の講習は、法律の義務であるだけでなく、実際の作業におけるリスクを正しく理解し、安全に作業を行うための知識を得る貴重な機会です。
- 有機溶剤の性質と危険性を理解できる
- 安全な作業方法を学べる
- 使用に応じた保護具の選び方・使い方がわかる
- 労災や健康被害を未然に防ぐ
といった多くのメリットがあります。特に事業者側としては、法令遵守の意識を高め、従業員の安全を守ることで、結果的に事業の安定にもつながります。
まとめ:自分の業務を見直すきっかけに
有機溶剤は、特殊な工場や製造現場だけでなく、ネイル、塗装、清掃、印刷など、私たちの身近な職場にも多く使われています。その使用には法的なルールが存在し、講習の受講や主任者の選任が必要なケースもあります。
「自分の業種は関係ない」と思っていた方も、改めて使用している薬品や作業内容を見直し、有機溶剤作業に該当するかを確認してみましょう。そして、必要であれば適切な講習を受講することが、安全で安心な職場づくりの第一歩です。
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